AIシステムは、科学研究を評価し利用するプロセスに参加する存在になりつつある。だが、そうしたシステムが目にするのは論文そのものではなく、引用数やダウンロード統計、あるいは人間の読者を前提に作られた人気論文リストといった信号である。これらの信号が「人工的な読者」の集合的注意をどこへ向かわせるのかは、これまで実証的に明らかでなかった。2026年9月18日にarXivへ投稿されたMaxim Chupilkin氏の論文「AI集団における社会的影響と科学的注意の配分」(arXiv:2609.22408)は、有名な「Music Lab」実験の枠組みを学術的注意の市場へ移植し、この問いに取り組んでいる。論文は人工知能(cs.AI)と一般経済学(econ.GN)の両分野に分類されている。
第1の実験では、1,000体のAIエージェントが、『American Economic Review』が2025年に掲載した通常研究論文114本すべてを対象に、タイトルと要旨だけを手がかりとして選択を行った。エージェントは10のコミュニティに分けられ、そのうち5つが独立選択コミュニティ、5つが社会的影響コミュニティであり、各コミュニティは順番に意思決定する100体のエージェントで構成される。両条件の唯一の違いは、社会的影響条件のエージェントが、同じコミュニティ内で先行するエージェントの選択結果を観察できる点である。エージェントは論文をいくつでも選べ、一つも選ばないことも許される。
結果には明確な構造的差異が現れた。社会的情報があるコミュニティでは、エージェント1体あたりの選択数が17.2%少なく、選択の分布はより集中し、コミュニティ全体が到達した論文は73本にとどまった。一方、独立選択のコミュニティでは集団的な被覆が90本に達した。つまり、他人の選択が見えるかどうかというきわめて単純な情報ルールが、注意の総量と広がりの双方を同時に縮めたのである。研究はさらに、社会的情報の下ではコミュニティ間の差が独立条件よりも大きくなることを示しており、この仕組みがコミュニティ単位の分極を増幅しうることを示唆する。
第2の実験は初期選択の因果効果を検証した。著者は200体のエージェントを20の社会的コミュニティに配置し、一部の論文を無作為に選んで5回の初期選択を人工的に与えた。その結果、こうして「下駄を履かされた」論文のその後の選択率は平均45.55ポイント上昇し、95%信頼区間は41.20〜49.90であった。初期の、一見すると恣意的な選択シグナルが、その後の集合的選好を強く形成することを意味する。
注目すべきは、エージェントの選択が現実世界の学術評価指標と必ずしも一致しない点である。外部被引用数との対応は中程度かそれ以下にとどまり、ダウンロード数との関係はさらに弱かった。これは、AIシステムが研究の選別や推薦、評価にますます用いられるようになると、そこが依拠する人気シグナルが、人類の学界が重要と認める成果へ資源を導かない可能性があることを示す。論文の結論は、単純な情報ルール一つで人工集団における科学的注意の規模・広がり・分布が再形成されうるというものであり、今後の学術評価制度、推薦システムの設計、そしてAIが研究レビューに関与する方法に直接的な含意を持つ。