拡散モデルにおけるデータ点アンラーニング(data-point unlearning)は、削除要求を受けたモデルに特定の学習サンプルを「忘れさせる」ことを目的とする。しかし現在の評価は、削除操作が終わった直後の瞬間に注目するのが一般的だ。その時点のテストで当該サンプルを再現できなければ、削除は成功したと見なされる。著者らは、この「その瞬間だけを見る」評価が現実を捉え損ねていると指摘する。実運用では削除要求は一度きりの出来事ではなく、同じモデルが一つの時間軸上で繰り返し更新され、複数の削除対象が順に積み重なっていくからである。
論文はこの累積的な影響の下で現れる問題を「逐次再出現」(sequential reappearance)と名付ける。すなわち、あるサンプルは削除直後には忘却済みと判定されたにもかかわらず、その後、別の対象に対する削除操作を経た段階で記憶状態へ戻ってしまう。重要なのは、この再出現が削除データの再導入も、攻撃者による敵対的ファインチューニングも必要としない点である。外部からの攻撃の結果ではなく、連続する忘却処理そのものが生み出す副作用だと言える。したがって、個々の削除がその場では成功して見えても、削除系列全体の結果は信頼できない可能性がある。
この現象を捉えるため、著者らは目標単位の評価プロトコルを提案する。プロトコルは系列内の各目標について三つの結末を個別に追跡する。削除の時点で即座に忘却されたか、系列の終了時点でも忘却が保たれているか、そして後続の削除過程で再出現したか、の三つである。単一削除後の忘却率だけを報告する従来の方法と比べ、目標ごとに追跡するこの手法は「一時的な忘却」と「安定した忘却」を区別でき、系列レベルでの安定性の差を明らかにする。
さらに論文は原因に関する手がかりも示す。著者らは、最後まで忘却され続ける目標に比べ、最終的に再出現する目標は、削除後に局所的なノイズ除去損失の幾何(denoising-loss geometry)がより鋭くなることを観察した。この知見は、ある目標が再び記憶されるかどうかと、削除点付近におけるモデルの損失の曲率とを結び付け、問題の診断と緩和に向けた実用的な信号を与える。より頑健な忘却アルゴリズムを設計するうえでの方向性も示唆している。
なお本稿は arXiv に公開されたプレプリントであり、番号は 2609.25166、2026年9月21日に投稿された。著者は Donghyun Kim を含む7名で、主題分類は機械学習(cs.LG)と人工知能(cs.AI)である。査読を経た確定結論ではなく、提案された評価プロトコルと幾何に関する観察は、コミュニティによる再現と検証を待つ段階にある。