レストランやカフェ、ブランドがプロモーション用の料理画像をAIで作るようになり、食欲をそそらない「AIスロップ」が急増している。ドーナツに絡まるエビ、深海から引き揚げたようなルーベンサンド、ミミズのようなヌードル、ヌードルみたいなペストリー、糸を引くチキン、建材にしか見えないアイスクリーム、脳みそを思わせるアイス、集合体恐怖を誘うブリトー……。なぜこれほどまでに不気味なのか。技術的な要因から訓練データ、人間の心理まで、専門家の証言とともに解説する。
生成の仕組みに原因の一端がある。オックスフォード大学でAI・政府・政策を教え、コンピュータビジョンを専門とするクリス・ラッセル教授は、多くの画像生成モデルが「拡散」という手法を使うと説明する。まずピュアなノイズ(砂嵐のような画像)から始まり、ノイズを少しずつ取り除いて目的の画像を創り出す。このとき最初に粗い構造が復元され、細かい質感は最後に付け加えられる。もし初期の段階で基本構造を間違えると、誤った構造に細かな質感が載ることになる。人間の手に指が6本あるような失敗と同類で、ドーナツエビもその例だ。
ナポリ・フェデリコ2世大学でAI生成画像への反応を研究する行動科学者ジョバンバッティスタ・カリファノ氏によると、拡散モデルは「細く、連続し、末端を持つ構造」を作るのがもともと苦手だという。麺類や糸、巻きひげはまさにその形状であり、解剖学や料理の論理を無視したスパゲッティのようなものが周囲ににじみ出してしまう。泡や種子のように反復するテクスチャも境界内に収まりにくく、不必要な場所へ飛び出しやすい。密集した穴はトリポフォビア(集合体恐怖)を刺激することもある。
モデルはそもそも食べ物が何かをまったく理解していない。チューリッヒ大学のデジタル文化・芸術教授ローラント・マイヤー氏は、「AI画像生成は見た目を再現するだけで、世界についてのきちんとした知識を持たない」と話す。AIは統計的に食べ物がどう見えるかを学習しているだけで、サンドイッチや麺、ブリトーが何であるか、どう振る舞うべきかを知らない。キングス・カレッジ・ロンドンのコンピュータ科学上級講師マイケル・クック氏は、そのためにアイスクリームがひび割れたコンクリートのように見えたり、バーガーが岩でできているように見えたりすると言う。こうしたテクスチャは建築の文脈では普通でも、食べ物として想像した瞬間に「おかしい」と感じられる。
訓練データも問題だ。クック氏は、これらのシステムがどのような内容で訓練されているのか、何を連想しているのかはほとんど知られていないと指摘する。マイヤー氏は、フード写真は鮮烈なコントラスト、強烈な色、つややかな照明、誇張された形など、高度に様式化されていることが多いと話す。AIはその表面を完璧にまねても、写真表現の背後にある専門的な美的戦略までは再現できない。「だからこそ見る人を不安にさせるのだ」と同氏は言う。ロンドン大学クイーン・メアリー校で計算論的創造性を専門とするサイモン・コルトン教授は、ごく普通の赤いリンゴの写真はネットにほとんどない一方、奇妙な画像はミームとして広がりやすいと指摘。AIは食べ物について奇妙な連想を抱え込む可能性がある。さらに近年はAIモデルが別のAIの生成物を使って訓練されることも多い。クック氏は、AI生成で流行した「食べ物の山に飛び込む人々」のような動画を想起させる。研究によれば、こうした再帰的な学習は「モデル崩壊」を招くことがあり、画像が退化し、互いに似てくる。
プロンプトや後処理も画像を悪化させうる。ユーザーが書くプロンプトや企業がモデルに与えるシステム指示が曖昧だったり、「正確に」といった文章向きの表現を含んだりすると、意図どおりの結果は得られない。低解像度画像を大幅に拡大すると、見過ごされていた歪みが強調されたり、モデルが不完全に穴埋めするはめになったりもする。
さらに人間の側にも理由がある。科学者によると、嫌悪感は寄生虫や病原体、毒素などから身を守る手段として進化し、私たちは「危険な食べ物」の手がかりに敏感だ。カリファノ氏は、食べ物の不気味の谷はロボットなど人間に近い存在の不気味さよりも内臓的な反応を引き起こすと話す。AI生成フードは、寄生虫を思わせる糸状の構造や、虫害を連想させる穴の集合、腐敗や汚染を思わせる色や質感など、複数の嫌悪トリガーを同時に刺激する。それは一見食べ物のようだが、私たちの脳はより深いところで「食べ物ではない」と見抜いている。だからこそAIフードは「スロップ」として、本能的に受けつけがたいのである。