粒状体(砂、粉体、医薬品顆粒など)のマクロな流動は、微視的な粒子同士の接触履歴に強く依存する。崩壊や流動を長期間にわたって信頼性高くシミュレーションするには、接触が形成・消滅・再配置される履歴を正確に保持しなければならない。しかし学習ベースのグラフネットワークシミュレータでは、接触グラフが動的に変化するときに「時間情報」をどこに保存するかが難しい。既存のGNSやNMGNSは主にノード特徴量やノードレベルのメモリに時刻歴を埋め込むが、接触が張り替えられると過去の接触情報が失われたり混ざったりしやすい。
TRACE(Spatiotemporal Contact Memory Graph Network Simulator for Granular Dynamics)は、この問題に対し、接触履歴をノードではなく接触エッジに直接保存するという設計を採る。各エッジは持続的なメモリを持ち、アテンションに基づくメッセージパッシングとゲート付き回帰ユニット(GRU)によって更新される。さらにエッジID辞書を用いて、接触グラフのトポロジが変化しても、対応するエッジのメモリを保持できる。デコーダは物理構造を反映し、粒子間の法線方向・接線方向の接触力を予測してクーロン摩擦限界を課し、作用反作用の内部力を適用する。
学習は単段階の事前学習の後、自己回帰的なロールアウトによるファインチューニングという二段構え。評価は2次元・3次元の粒状柱崩壊(column collapse)ベンチマークで行われ、安定で物理的に一貫した長期ロールアウトを生成し、最終堆積形状と崩壊時の運動エネルギー放出をよく再現した。
既存のグラフネットワークシミュレータ(GNS)およびノードメモリ型グラフニューラルシミュレータ(NMGNS)と比較すると、長期ロールアウトの位置誤差を31〜62%、最終堆積誤差を58〜89%削減し、パラメータ数は少なく、粒子の相互貫入はほぼゼロを維持した。また高精度な参照解法である物質点法(MPM)と比べて、2次元で12.2倍、3次元で8.9倍の高速化を達成している。
本論文はChangjian Zhou氏を含む6名の著者によるもので、2026年9月2日にarXiv:2609.02991として提出された。Subjectはcs.LG、math.NA、stat.MLにまたがり、DataCite経由のDOI登録が保留中とされている。コードはGitHub上(Data-Driven-Computational-Geotechnics/TRACE)で公開されており、追試や応用が可能になっている。