TACS-RF は、大規模言語モデルをツール操作の中核に据えた RF・ミリ波モジュール向けの回路合成フレームワークである。単にテキストやネットリストの断片を生成する試みとは異なり、LLM コーディングエージェントが Cadence Virtuoso/Spectre、Calibre、Cadence EMX、Ansys HFSS といった業界標準の電子設計自動化(EDA)ツールを直接操作し、回路構築、シミュレーション検証、レイアウトおよび電磁界シミュレーションまでを横断する。論文の著者は Tristan Liang と Aravind Nagulu で、2027 年 IEEE Radio and Wireless Week の SiRF セッションへの採択が決まっている。
検証の対象として選ばれたのは、90 nm SiGe BiCMOS プロセス上で動作する 240–251 GHz のサブテラヘルツ送信機である。エージェントは半自律的に、二次高調波抽出を伴う 60 GHz プッシュプッシュ型 Colpitts 電圧制御発振器、多段差動カスコード電力ドライバ、プッシュプッシュ型周波数ダブラ、差動ボウタイアンテナ、そして各段間の整合ネットワークを設計した。これらは個別に生成されるだけでなく、送信チェーン全体として段階的に統合され、検証されている。
設計結果は、寄生抽出後のデバイスモデルと電磁界検証済みの受動素子を用いて評価されている。送信チェーンは、バラクタのみによる 11 GHz の同調範囲にわたり +5.1〜+6.3 dBm の出力を達成し、1 MHz オフセットでの位相雑音は -80〜-88 dBc/Hz、直流電力は 361 mW である。これらの指標は、エージェントが単なる手順の実行にとどまらず、実際のプロセス制約とシミュレーション反馈の下で評価可能な回路解に収束できることを示している。
論文はさらに、エージェント駆動の設計フローと、人間とエージェントの間で成立する役割分担を記述する。人間は目標設定、制約のトレードオフ、結果のレビューを担い、エージェントは多数のツール操作、パラメータ掃引、反復最適化を引き受ける。著者らはこの試みを text-to-ASIC への一歩と位置付けており、自然言語で要件を記述し、エージェントがツールチェーンを駆動して特定用途向け集積回路を設計する未来を展望している。この方向が成熟すれば、RF・ミリ波ハードウェア設計における人手中心の反復作業を変える可能性があるが、現状は半自律的な協働であり、完全な無人設計ではない点も論文は示している。