計算言語学では、あるコーパスから推定した平均依存距離を、その言語自体の特性として扱うことが少なくない。しかし、この前提が独立に構築された複数のコーパス間で成り立つかどうかは、ほとんど検証されてこなかった。今回のプレプリント研究は、Universal Dependencies v2.18に含まれる38組の同言語ツリーバンクを比較し、コーパスの選択が依存距離の推定値に与える影響を直接評価した。論文は2026年7月6日にarXivへ投稿され、本文18ページ・図3点からなる計算言語学(cs.CL)分野の研究である。
分析では、一致性相関係数、Bland-Altman分析、そして12種類の前処理仕様を組み合わせたマルチバース設計が用いられた。結果として、ツリーバンク間の一致度はせいぜい中程度にとどまった。あるツリーバンクを別のものに置き換えると、言語のペアごとの順序の約40%が逆転し、ツリーバンクの選択はグループ間分散のおおよそ29%を説明した。この不一致はツリーバンク内のサンプリング誤差を大幅に上回っており、12種類すべての前処理仕様でも一貫して観察された。
一方で、すべてのツリーバンクが依存長最小化(正規化比が1未満)を示した。つまり、依存関係にある要素を近くに置く傾向という定性的な普遍傾向は、コーパスを交換しても維持される。しかし、依存距離を言語間の順位比較に使う場合、コーパスの選択が結果を大きく揺るがすことが明らかになった。
論文著者は、平均依存距離(MDD)は安定した言語レベルのパラメータというよりも、文法、レジスター(文体)、注釈方式などの要因がコーパスごとに合成されたものであると整理している。定性レベルでの依存長最小化はコーパスを替えても成立するが、言語間の順位づけは成立しない。したがって、単一ツリーバンクに基づく言語比較や理論検証には注意が必要であり、複数のコーパスと複数の前処理条件による頑健性の確認が重要だと研究は示唆している。