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世界初の超伝導量子熱エンジン、大規模量子コンピュータ実現への鍵に

フィンランドのアールト大学の研究チームは、超伝導回路内で量子熱を仕事へ変換する初のサイクル型量子熱エンジンを実証した。将来的には量子コンピュータ内部で自律動作し、高コストでノイズを生む多数のマイクロ波ケーブルを不要にできる可能性がある。

フィンランドのアールト大学の研究チームは、極低温に近い環境で量子スケールの熱を有用な仕事に変換する、極めて小さな超伝導熱エンジンを開発した。超伝導回路内でサイクル型の量子熱エンジンを実証したのは世界初となる。この成果は2026年8月14日付で『Nature Communications』に掲載され、フィンランド科学アカデミーの教授ミッコ・モットネン氏が率いる研究によるもので、論文の筆頭著者はトゥオマス・ウースネキ氏。

通常の熱エンジンは熱を仕事に変える。ジェームズ・ワットの蒸気機関や自動車、発電所などがその代表例だ。量子熱エンジンは、トンネル効果や量子もつれ、重ね合わせといった量子効果が支配的な領域で、熱力学のプロセスがどのように振る舞うかを探る研究だ。今回の実験では、トランスモン量子ビット、共振器、量子冷凍機を一つの超伝導回路に組み込み、極低温クライオスタット内で運転した。

研究チームは超伝導回路内にオットーサイクルを再現した。オットーサイクルは自動車エンジンなどにも使われる熱力学サイクルだ。従来の熱エンジンは高温と低温の別々の環境を必要とするが、このシステムでは一つの量子回路冷凍機が加熱と冷却の両方の役割を担う。ウースネキ氏は「量子回路冷凍機は量子ビットを要求に応じて加熱・冷却できるため、タイミングを制御したパルスでオットーサイクルを駆動し、エンジンの動作中に量子ビット状態を監視した」と説明する。測定の結果、サイクル中に量子ビットを通過する熱が正の仕事を生み出していることが確認された。

この成果は量子コンピュータの大規模化に役立つ可能性がある。現在の量子コンピュータでは、ミリケルビン温度の量子回路と室温の制御装置をつなぐために、膨大な数のマイクロ波ケーブルが必要だ。フィンランドの量子技術戦略は2035年までに1000論理量子ビットの量子コンピュータを目指しており、その場合、物理量子ビットは数十万個に達すると見込まれる。現行技術では数百万本のマイクロ波ケーブルが必要で、1本あたり約1000ユーロかかり、さらにノイズも導入する。研究チームは、自律動作する熱エンジンを超伝導回路に直接組み込むことで、これらのケーブルの大部分を不要にできるとしている。

モットネン教授は「自律デバイスを使えば、大規模量子コンピュータの膨大なハードウェア要件と、ケーブルが引き起こすノイズという2つの課題に同時に対処できる」と述べている。研究チームは今後、設計を改良し、完全に自律的な熱エンジンの開発を目指す。実験はフィンランドのナノ・マイクロ・量子技術の国家研究インフラであるOtaNanoで実施され、フィンランド研究評議会とフィンランド文化基金の助成を受けた。