AIエージェントに検証済みIDが必要な理由
Chris Bergeron氏は、9ドルで暗号学的に所有できる移植可能で人間が読める名前を提供するusername.mdを発表した。AIエージェントが相手を検証できるようにするための分散ID(DID)サービスで、Agentic Webに欠けているピースだと主張する。DIDは来歴・アンカリング・移植性をもたらし、Googleなどが提供するOAuth方式のログインとは異なり、ベンダーロックインや大企業の囲い込みを防ぐ。
2026年8月11日、Chris Bergeron氏は「username.md」を発表した。9ドルを支払えば、インターネット上で自分の名前を「所有」できる。レンタルではなく、暗号学的に、移植可能な形で恒久的に所有するという主張だ。AIエージェントがカレンダー管理、購入、リサーチ、コミュニケーションなどあらゆるワークフローに入り込む今、これこそAgentic Webに欠けているピースだと彼は言う。
20年前、Bergeron氏は「インフォテインメント」という言葉が生まれる前に、車載タッチスクリーンコンピューターを開発し、製品カテゴリーを生み出した。現在は同じアプローチでAIとAgentic Webのタイムラインを前倒ししようとしている。かつてインターネットの中心的な問いは「ウェブアドレスとは何か」であり、答えがURLだった。次世代の住所はURLではなくdid:webになる。username.mdは、その新しい情報スーパーハイウェイへの入り口だ。
分散ID(DID)はW3C標準の識別子で、URI形式で人、組織、データモデル、抽象的なエンティティを指す。電子メールやプラットフォームのアカウントと違い、DIDは特定のサービスプロバイダーに所有されず、クロスプラットフォームで機能し、ベンダーロックインを防ぐ。パスワードの代わりに公開鍵と秘密鍵を使い、分散型公開鍵基盤(DPKI)を形成する。プライバシーを守り、同意とデータポータビリティを可能にするのも特徴だ。
「DIDは分散化されているのに、なぜ販売するのか」という質問に対して、Bergeron氏は短期的にはusername.mdが中央集権的な入り口になることを認めている。既存のドメインでDID文書を自分でホストしたい場合は、ブログのメタタグとschema.orgを使った例を参考にできる。彼の目標は、この能力をすべての人が使えるようにすることであり、その手段としてusername.mdを提供している。
記事はまた、Meta、Google、Microsoftなど巨大テック企業がAIの入り口になろうとしていると警告する。マーク・ザッカーバーグ氏は「未来はみんなのもの」と書いたが、大企業はユーザーを自社の囲い込み(ウォールドガーデン)の中に留めようとする。「Googleでログイン」をクリックした時点で、その事業者の利用規約を受け入れたことになる。エージェント時代には、AIエージェントはあなたについて何を知っているのか、エージェント同士の通信で誰が何に署名したのか、問題が起きたとき誰が責任を負うのか、誰がエージェントを統治しコンプライアンスを証明するのか——こうした問いに、ログインボタンは答えられない。その答えになるのが検証済みIDだ。
2026年における「検証済みID」は、来歴(メッセージが秘密鍵を持つ実体から送信されたことが証明できる)、アンカリング(鍵が安定した人間可読な名前、たとえばchris.username.mdに結びつく)、移植性(名前が単一プラットフォームに依存せず、ホストを移しても同じIDに解決される)という3つの性質を持つ。username.mdはOIDCディスカバリーエンドポイントを提供し、すべてのレスポンスにRFC 9421署名を付ける。エージェントは約4行のGoコードで検証できる。
Bergeron氏はOAuthの限界も指摘する。GoogleやGitHubはアカウントの存在を証明できても、ユーザーが自分のIDを所有していることは証明できない。OAuthトークンは不透明で、ユーザーは自分の署名鍵を渡されない。プラットフォームがアカウントを閉鎖すれば、そのユーザーはオンライン上で存在を失う。OAuthは人間がアプリにログインするために作られたものであり、エージェントには異なる仕組みが必要だ。
9ドルで購入できるものは3つある。1つ目は公開できる検証済みID(chris.username.mdが署名付きDID文書、OIDCディスカバリー、ATProtoハンドル、プレーンテキストでエージェント可読なプロフィールに解決される)。2つ目はエージェントによる発見を可能にする署名付きSKILL.md。3つ目はサブスクリプションではなく、一度の支払いで済む所有権だ。企業が消えても、公開DIDレジストリのスナップショットにハンドルは残る。プロジェクトはdid:web、OIDC(RFC 6749)、RFC 9421、AT Protocolといったオープンスタンダードだけで構築され、The Holding Companyとchrisbergeron.comが支える。Bergeron氏は「20年間早すぎることをやってきた」と語り、username.mdが次のCloudflareになると主張しない。それでも、AIゴールドラッシュで旗を立てる場所にはなり得る。