医療用マルチモーダル大規模言語モデル(MLLM)は、臨床VQAや放射線レポート生成において大きな可能性を示している。しかし推論時に生じるハルシネーションは、信頼できる利用を妨げる要因となっている。モデルは流暢な結論を出力しても、それが画像上の証拠と矛盾することがある。既存の緩和策は、追加学習、外部検索や知識ベース、あるいは多段階の事後検証に依存するのが一般的であり、コストとパイプラインの複雑さを増すうえ、モデルやタスクをまたいだ汎化性能が低いことが多い。
この問題に対し、Rui Hao氏ら7名の著者は、追加学習を必要としない包括的な「証拠注入」フレームワークを提案している。両側への証拠注入によってハルシネーションを体系的に抑制する。実装では、MedSAMを用いて関心領域(ROI)の事前情報を取得し、ROI誘導の活性化変調によって視覚知覚の軌跡を再調整する。一方、解剖学的座標を離散的な意味トークンに写像し、検証可能な外部メモリとしてテキスト推論の軌跡をアンカリングする。さらに、タスク認識型の動的ルーターを導入し、タスクの意味に応じてモダリティ固有の介入を選択することで、知覚的接地と言語的流暢性のバランスを取る。
評価は2つのタスクと5つのデータセットで実施され、LLaVA-1.5-7B、LLaVA-Med-1.5-7B、Qwen3-VL-8B/32B、InternVL-3.5-8B/38Bが用いられた。制御されたアブレーションと可視化によりフレームワークの有効性がさらに検証され、複数の医療ベンチマークで一貫してベースラインを上回った。閉形式の精度は最大で約6%向上し、開形式のハルシネーションは約35%減少した。
本論文はMICCAI 2026に早期採択(Early Accept、上位9%)されており、コンピュータビジョンとパターン認識(cs.CV)に分類されている。2026年6月30日にarXivへ投稿され、識別子はarXiv:2607.00060、コードはGitHub(https://github.com/Henry991115/SPRG)で公開されている。この研究の意義は、追加学習や外部検索に頼らず、医療MLLMの出力を検証可能な解剖学的証拠に整合させる軽量な道筋を示した点にある。