化学反応ネットワークは、ポテンシャルエネルギー面上の極小点と遷移状態、およびそれらを結ぶ素反応のグラフであり、触媒から燃焼、生命の起源に至るまで化学現象を記述する自然言語である。しかし、与えられた化学系に対してそのようなネットワークを構築することは非現実的であった。従来の密度汎関数理論(DFT)などの手法では、数万もの遷移状態を見つけて特徴づける必要があり、計算コストが膨大で、反応物と生成物を入力として与えなければならない。
この障壁を打破するため、研究者らはReactionAtlasを提案した。これは、少数の種分子から出発し、手作りのルールを一切用いずに反応ネットワークを自动構築する機械学習フレームワークである。中核となるのは、動力学サンプリングされた候補化合物から反応を提案する機械学習生成モデルと、DFTで訓練された機械学習力場(MLFF)である。MLFFは提案された反応を選別し、有効な遷移状態を同定する。得られた生成物は新たな種として探索に加わり、ネットワークが反復的に拡大する。
実験では、8つの前生物的種分子(CH2O、H2O、OH-、H3O+、CO2、H2CO3、HCO3-、H)から開始し、約47,000の反応と約12,000の化合物からなるネットワークを発見した。精度面では、MLFFが予測した遷移状態は85%のケースでPBE0参照構造とRMSD 0.5 Å以内で一致し、必要に応じてPBE0レベルに容易に引き上げることができる。これによりReactionAtlasは、C4H8O4までの小分子炭水化物化学を、電荷や立体化学情報を含めて前例のない規模と精度でマッピングできる。
さらに、このフレームワークは既知の反応経路に関する新たな知見をもたらす。特に、生命の化学的起源において中心的な役割を果たすフォルモース回路(formose cycle)に注目し、その代替反応経路を確立できることを示した。これは前生物的条件下での糖合成の理解に新たな視点を提供する。
本研究は、複雑な化学反応ネットワークの自動探索における機械学習の可能性を示しており、触媒から宇宙化学まで幅広い分野の研究を加速することが期待される。論文は「ReactionAtlas: Ab origine exploration of chemical reaction networks with machine learning」と題され、Stefan Guglerら4名の著者によって2026年6月29日にarXiv(2606.30778)に投稿された。機械学習(cs.LG)と化学物理(physics.chem-ph)の学際領域に属する。