ノーベル化学賞受賞者オマー・ヤギ氏、清華大学でAI材料研究所を率いる
2025年ノーベル化学賞受賞者オマー・ヤギ氏が米国を離れ、中国の清華大学でAI駆動の研究センターを指揮する。AIを活用した材料設計・合成の加速により、水不足やカーボンニュートラルなどの環境課題に取り組む。
2026年7月4日、清華大学は、2025年ノーベル化学賞を共同受賞したオマー・ヤギ氏(61歳)が米国を離れ、同大学に新設された人工知能(AI)駆動の研究センターを率いることを発表した。ヤギ氏はこれまでカリフォルニア大学バークレー校でジェームズ・アンド・ネールチェ・トレッター教授職を務めており、これは米国化学界で最も名誉あるポストの一つである。今回の異動により、機能性材料の世界的権威が中国の急速に発展するAI科学エコシステムに直接参画することになる。
清華大学によれば、ヤギ氏はAIを活用して新材料の設計と合成を根本的に変革し、開発サイクルを「桁違いに」短縮するチームを指揮する。就任式で同氏は、水不足、カーボンニュートラル、持続可能な開発といった重大な環境課題に対処できる材料の開発を目指すと述べ、AI駆動化学における次世代科学者の育成にも意欲を示した。
ヤギ氏はリチャード・ロブソン氏、鈴木章氏とともに、金属有機構造体(MOF)の先駆的研究により2025年ノーベル化学賞を受賞した。MOFは金属イオンと炭素系分子を結合させた超多孔質スポンジ状の材料で、既知の最高表面積を持ち、二酸化炭素の捕捉・変換、乾燥空気からの採水、水素吸蔵によるクリーンエネルギー利用を可能にする。今回の移籍は、これらの技術の商業化を加速させる可能性がある。
ヤギ氏のキャリアにおける重要な資産の一つは、彼が育成した人材ネットワークである。カリフォルニア大学バークレー校の博士研究員・周子恵氏によると、ヤギ氏はこれまでに約200人の研究者を育成し、その半数近くが中国人である。このネットワークは、清華大学がヤギ氏の方法論に精通した経験豊富なMOF研究者を即座に採用できる優位性をもたらす。人材パイプラインの深さは、今回の異動が単なる一研究室の任命を超えた戦略的重みを持つことを示している。
今回の異動は、北京大学、復旦大学、南京大学、上海交通大学などの中国の有力大学が、特にAIと物理科学の融合分野で世界的に有名な科学者の獲得競争を激化させる中で起きた。また、ワシントンと北京間の研究人材流動をめぐる地政学的緊張が続く中での動きであり、近年、両方向で複数の高名な学者が移籍している。ヤギ氏の決定は、ワシントンやブリュッセルで科学外交政策や、トップ研究者が米国外で働くことを選ぶ条件について新たな議論を引き起こす可能性がある。
今後の焦点は、ヤギ氏の清華大学センターが最初の研究サイクル内に商業化可能なMOFベースの炭素回収や大気中採水ソリューションを生み出せるかどうかだ。より広範な問いとして、AI加速材料科学が大国間の技術競争の新たな戦線となるかどうかが注目されており、その最初の明確な答えが北京で見つかるかもしれない。