都市には交差点のカメラや各地のセンサー、上下水道や交通、廃棄物処理などの運用システムから日々膨大なデータが集まってくる。しかし本当の課題はデータの収集そのものではなく、それを都市計画や設備保全、公共サービスのための具体的な行動に結びつけることにある。NVIDIAとそのパートナーは、現実世界を理解する物理AIと、市民や運用担当者のために自律的に動くエージェントAIを組み合わせることで、この課題を解決しようとしている。
この取り組みは、ベルリンで開催されたGTCで発表された計画を発展させ、世界のより多くの都市へ広がっている。鍵となるのは共有コンピューティング基盤である。都市の各部署や隣接する自治体、地元の開発者が同じ基盤の上でアプリケーションを構築できるため、組織ごとにリソースを調達・管理する必要がなくなる。予算や人材が限られる自治体にとって導入の敷居は下がり、機密データの処理方法を自ら管理する体制も維持しやすくなる。
住民向けサービスでは、大規模なインフラ投資を最初から行う必要はない。ワークロードによっては、NVIDIA RTXワークステーションや小規模なGPUシステムで十分に開発を始められる。スペインの1MillionBotは、バルセロナ・スーパーコンピューティング・センターで学習されたオープンソースのALIAモデルとNVIDIA Nemotronなどのモデルを組み合わせ、マドリード自治州のデジタル部門やカタルーニャ州の行政サービス機関、スペイン国内150以上の拠点に住民サービスエージェントを提供している。自治体の手続きや予約申請、都市計画に関する事案の報告、各種サービスへの問い合わせに対応する。
米国サンフランシスコ・ベイエリアでは、LiveXがNVIDIA CosmosのワールドモデルとNemotronのオープンモデル、さらにNVIDIA RTX PRO GPU上で動作するOmniverseとMetropolisのライブラリを活用し、「AIシティ」構想の実現を進めている。対話型のAIホストは利用者のニーズを理解して回答し、行動を起こすことができ、空港や病院、地域イベントなど公共空間の言語やサービス要件に合わせてカスタマイズできる。視覚AIエージェントは、既存の都市カメラの映像を運用上の知見に変え、モビリティや安全上の問題の把握、都市サービス間の緊急対応の調整を支援する。
ポーランドのヴロツワフでは、K2KがNVIDIAの高速計算基盤とCosmosワールド推論モデル、映像検索・要約(VSS)向けのMetropolis Blueprintを用いて共有AIインフラを構築している。既存のカメラ映像をモビリティや安全、イベント対応に役立つ情報に変換し、同じ基盤を複数の都市機能で活用する。マレーシアのITMAXは、インフラとエージェントAIアプリケーションを都市向けの長期マネージドサービスとして提供しており、交通管理はその重点分野の一つである。CosmosやNemotron、Metropolis VSSブループリントを参考に構築したSamurAI V2視覚エージェントはNVIDIA RTX PRO 6000 GPU上で拡張され、2027年までに1万7,000台以上のカメラを支える計画だ。さらにLaplace Intelligenceのオープンソース交通シミュレーション基盤TeraSimを統合し、信号のタイミングを検証することで、ピーク時の幹線道路の通行時間を最大26%短縮している。
市民向けサービスにとどまらず、デジタルツインは都市計画や重要インフラの運用方法を変えつつある。都市のデジタルツインを使えば、着工前にシミュレーションを行って地域社会への影響を抑えられるほか、リアルタイムの運用シミュレーションとして意思決定の迅速化にも役立つ。ナイジェリアのDangoteが手がけるLekki製油所では、Honeywell TechnologiesのForge Plant CognitionがNemotron搭載のAIエージェントで運用データを理解している。Omniverseライブラリで構築した工場とプロセスのデジタルツインもシミュレーションや訓練のために計画されている。NVIDIA RTX PROアクセラレータを搭載したDell PowerEdgeサーバー上に構築されたこの基盤は、運用担当者がボトルネックを特定し、設備やプロセスの問題を予測し、工場の性能を最適化するのに役立つ。
台湾では、Linker Visionとオランダの建築事務所MVRDVがNVIDIA OmniverseとNemotronを使い、さまざまな都市計画シナリオの環境影響を評価するESG(環境・社会・ガバナンス)エージェントを構築している。従来は1回の設計反復に2週間かかっていたところを1時間未満に短縮し、都市森林の樹冠が15年後に及ぼす効果を10分でシミュレーションできるようにした。
都市は既存のインフラを活用しながら能力を追加することで、AIサービスをさらに広げられる。共有リソースやマネージドサービスは、そうした機能を部署や自治体をまたいで拡張する助けとなる。モロッコのTanger Med港では、Cires Technologiesが主権AIファクトリーを拡張し、労働者の安全や渋滞分析、貨物ルーティング、港湾運用への応用を計画している。また、港湾や都市向けのローカルモデルやアプリケーションを開発するアプリケーションプロバイダーのエコシステムも育成している。スペインでは、バルセロナ・スーパーコンピューティング・センターのAIファクトリー・アクセラレーター・プログラムが、スタートアップに主権コンピューティングや技術支援、トレーニングへのアクセスを提供し、農業や医療画像、知識アクセス、音声サービスなど幅広い分野の研究とイノベーションを支えている。
こうした取り組みは、11月3日から5日までバルセロナで開催されるスマートシティ・エキスポ・ワールド・コングレスで紹介される。NVIDIAのEMEA担当副社長Paolo Guglielmini氏が基調講演を行い、その後、NVIDIAのEMEAスマートシティ&スペース担当ディレクターCharbel Aoun氏がモデレートするパネルディスカッションが予定されている。