BIS年次経済報告:AIシナリオにおける進展と危険
BIS年次経済報告は、関税や中東紛争の中での世界経済の回復力を分析し、AI関連投資が主要な原動力である一方、インフレ持続性、金融脆弱性、財政リスクを警告している。物価安定、財政余地の回復、構造改革の重要性を強調。
国際決済銀行(BIS)は2026年6月28日に発表した年次経済報告で、「進展と危険」と題し、世界経済の回復力とリスクを分析した。同報告は、米国の関税ショックや中東紛争にもかかわらず、世界経済が予想以上の回復力を示した要因として、人工知能(AI)関連投資と緩和的な金融環境を挙げる。一方で、インフレの持続性、AI投資の持続可能性、金融脆弱性の拡大、財政悪化といった圧力点が高まっていると警告する。
報告は過去12か月を2つのフェーズに区分する。第1フェーズ(2025年初~2026年2月)では、米国の大幅な関税引き上げにもかかわらず、世界貿易と成長は維持された。実効関税率は例外措置や貿易協定により平均10%にとどまり、当初の25%超から低下した。貿易の方向転換も影響を緩和し、中国の対米輸出は減少したが、他のアジア市場への輸出が増加した。企業は利益圧縮により価格転嫁を一部に抑制し、米国企業はコスト上昇の約3分の2を利益減少で吸収した。さらに、AI楽観論が半導体、データセンター、電力インフラへの巨額投資を促進し、米国やアジアの成長を牽引した。多くの中央銀行は利下げを実施し、金融環境は緩和的で、株式市場は堅調に推移した。
第2フェーズは2026年2月末に始まった中東紛争とホルムズ海峡封鎖によって特徴づけられる。日量1000万バレル以上の原油供給が遮断され、世界の正常供給の13%に相当する。これは1970年代の石油危機(約8%)を上回る規模である。アジア諸国が最も大きな打撃を受け、日本、韓国、タイなどは原油輸入の大部分をホルムズ海峡に依存していた。供給ショックは石油・ガスにとどまらず、肥料、石油化学製品などにも波及し、世界的な食料安全保障を脅かす可能性がある。エネルギーインフラの物理的損傷により、カタールのLNG施設は能力の17%を失い、完全復旧には最大5年を要する見込み。
紛争はインフレ期待と金融政策の見通しを大きく変えた。欧州を中心にインフレ補償が急上昇し、市場は米国、ユーロ圏、英国、カナダなど多くの国での金融引き締めを織り込み始めた。名目利回りは上昇し、イールドカーブはフラット化した。長期金利は財政懸念から上昇した。しかし、リスク資産は紛争発生後にいったん下落したが、過去の類似事象と比べると売りは限定的で、その後回復した。
報告は、物価安定の維持、財政余地の回復、銀行以外の金融安定の強化、構造改革が優先課題であると結論づけている。各分野での規律が他の政策の余地を拡大するとしている。
(本記事はBIS年次経済報告に基づき、実質的な事実とタイムラインを保持して作成されました。)