肝内胆管癌(ICC)は予後不良な肝臓癌であり、神経周囲浸潤(PNI)は独立した予後因子として術後再発や生存率低下と強く関連しています。しかしながら、PNIの確定診断には手術病理が必要であり、術前の画像診断による予測は困難です。従来の方法は放射線科医による手動特徴定義や造影画像に依存しており、手間がかかる上に主観的で、臨床での広範な利用には限界がありました。
この課題に対し、研究チームは解剖学的特権蒸留フレームワーク(Anatomy-Privileged Distillation with Token Routing, APDT)を提案し、T2強調MRIのみから患者レベルのPNI予測を実現しました。本フレームワークは教師ネットワークと生徒ネットワークから構成されます。教師ネットワークは訓練時に腫瘍および肝臓のマスクを解剖学的ガイダンスとして活用し、最も識別力のある画像領域(腫瘍辺縁、胆管壁、神経血管束など)に焦点を当てた高密度トークンルーティングを学習します。生徒ネットワークは固定された計算予算の下で、教師の知識を蒸留し、情報価値の高いトークンを保持・集約する一方、冗長なトークンを破棄します。重要な点として、解剖学的マスクは訓練時のみ使用され、推論時にはマスクや手動注釈を一切必要としないため、「訓練時特権、推論時教師なし」という実用的な手法を実現し、臨床展開のハードルを大幅に低減しました。
155人の患者からなる内部データセットにおいて、提案手法の平均AUROCは0.750に達し、従来の放射線学的特徴量や深層学習ベースの分類器を含む全てのMRI単独ベースライン手法を上回りました。計算量はわずか1.43 GFLOPsであり、NVIDIA Jetson Orin Nano Super開発キット上で1症例あたり8.02ミリ秒で処理可能で、エッジデバイスへの展開に適した高い効率を示しています。これらの結果は、解剖学的ガイダンスを用いた蒸留戦略の有効性を実証するとともに、本手法が精度と効率のバランスに優れ、臨床応用の可能性を秘めていることを示しています。
本研究はHyunsu Go氏ら18名の著者によるもので、医学部と工学部のクロスディシプリナリーチームが参加しています。プレプリントはarXiv(ID: 2607.11987)に公開されています。今後の展望として、多施設データでの検証や、拡散強調画像など異なるMRIシーケンスへの汎化性能の評価が計画されており、予測のロバスト性と汎用性の向上が期待されます。