オフィスビルにおける機器レベルのエネルギー監視は、専門知識を持たない施設管理者にとって扱いにくいノイズの多いアラートを大量に生み出す。この課題に対し、IEEE CCNCPS 2026で発表が受理された論文は、深層時系列予測、変分異常検知、大規模言語モデル(LLM)に基づく推論を統合したエンドツーエンドのエージェントパイプラインを提案している。著者はDihia Falouzら5名で、2026年6月26日にarXivへ提出された(arXiv:2606.28467)。機械学習、人工知能、計算言語学の交差領域に位置づけられている。
予測段階では、システムはオフィス内の7機器を追跡し、特異スペクトル分析(SSA)と長短期記憶(LSTM)を組み合わせたハイブリッドモデルで消費エネルギーを予測する。異常検知段階では、機器ごとに注意機構付きのLSTM変分オートエンコーダ(VAE)を用意し、異常な日次消費エピソードにフラグを立てる。機器ごとに閾値を個別化する設計は、機器によって消費パターンが大きく異なる実環境への対応を意図している。
アラートが発生すると、LangChainベースの3段階パイプラインが推論を担う。第1段階のコンテキストエージェントは、モデル信頼性、時間別ベースライン、専門家知識という3つのコアRAGソースを常に取得し、イベントの特性に応じて予測コンテキスト、異常履歴、グローバルベースラインの最大3つを条件付きで追加する。推論ステップは最大8回に制限される。第2段階の診断エージェントは収集した証拠を構造化JSONの診断に変換し、第3段階のレポートエージェントが人間が読めるナラティブを生成する。さらに、運用者からのフィードバックを取り込む反思メモリ層が設けられており、将来の推奨を漸進的に調整できる。
ダッシュボードには、リアルタイムの30分予測、日内消費量、前日の異常レポート、フィードバックフォームが表示され、施設管理者が確認と応答を行えるようになっている。
評価は、持続的・一時的なスパイク、予期せぬシャットダウン、システム全体のイベントを含む16シナリオのベンチマークで実施された。予測モデル、機器別閾値を持つ異常検知器、LLM推論を対象に、5種類のLLMバックエンドを静的検索と動的検索の条件下で比較している。その結果、動的検索は全バックエンドで完全な静的検索と同等の性能を示し、イベントあたりの平均コンテキストソースを6から3〜6に削減した。最良のバックエンドは90.4/100を記録し、70点閾値での通過率は100%だった。さらに、完全にローカルで動作する70億パラメータのモデルも全16シナリオを通過しており、プライバシー重視やオフライン環境での展開可能性を示している。