AIが音楽業界を激変させる中、グラミー賞はどう対応すべきか?
レコーディング・アカデミーCEOのハーヴェイ・メイソン・ジュニアが、AIの音楽制作における「遍在」を認め、毎日5万曲以上のAI生成曲がDeezerにアップロードされていると語った。グラミー賞は「人間の創造性が最小限以上」の作品のみを対象としているが、審査は困難を極める。業界ではチケット高騰やツアー中止(ブルードットフィーバー)も課題だが、ライブ需要は依然高い。メイソンはAIを道具と位置づけ、人間の創造性こそが芸術を前進させると強調。
レコーディング・アカデミー(全米レコード芸術科学アカデミー)のCEO、ハーヴェイ・メイソン・ジュニア氏がDecoderポッドキャストで、人工知能(AI)が音楽業界に与える影響について語った。グラミー賞を主催する同氏は、AIが音楽制作において「遍在している」と述べ、1年半前と比べてその品質が劇的に向上したことを認めた。
メイソン氏は自身も名プロデューサーであり、ジャネット・ジャクソンやビヨンセなどと仕事をしてきた。彼によると、現在のセッションではほぼすべての部屋でAIが使用されており、コード進行の生成、ドラムループの補完、歌詞の提案、バックボーカルの作成など、多岐にわたる用途がある。「AIが生成したとは思えないほど高品質なものもあり、驚かされる」と述べる一方で、長年技術を磨いてきたクリエイターたちにとっては脅威でもあると認める。
グラミー賞の審査ルールは、「人間の創造性が最小限以上」含まれていることを要件としている。AIがバックボーカルを担当した場合、パフォーマンス部門には応募できないが、ソングライティング部門などには応募可能だ。しかし、実際の判断は申請者の申告と審査委員会の主観に依存しており、完璧なシステムとは言い難い。メイソン氏は「綱渡りのようなものだ」と語る。
業界はAI以外にも課題を抱えている。いわゆる「ブルードットフィーバー(青い点フィーバー)」と呼ばれる、チケット販売サイト上の未販売席(青い点)が目立つ現象により、ミーガン・トレイナーやポスト・マローンなどの大物アーティストがツアーをキャンセルしている。メイソン氏は、チケット価格の高騰と生活費の上昇がその背景にあると分析。一方で、コーチェラ・フェスティバルのような大型イベントは依然として好調であり、人々のライブ体験への欲求は衰えていないと指摘する。
また、レコーディング・アカデミーは50年以上続いたCBSとの提携を終え、ディズニー(ABC)と新たな契約を結んだ。メイソン氏は、「これは単なる金銭的な決断ではなく、グローバル展開やコンテンツ多様化の戦略だ」と説明。グラミー・スタジオを新設し、ドキュメンタリーや脚本作品など、音楽に関する様々なストーリーを発信する計画だ。さらに、TikTokなどのソーシャルプラットフォームを活用し、若年層へのリーチを強化する方針を示した。
AIの長期的な影響について、メイソン氏は慎重ながらも楽観的な見方を崩さない。「AIは人間の創造性を代替するものではなく、道具に過ぎない。真に芸術を前進させるのは、生身の人間の経験と感情だ」と強調。また、アーティストの声や肖像を保護する「NO FAKES法案」などの連邦レベルの立法を支持している。
最後に、今年グラミー賞を逃したサブリナ・カーペンターについて問われると、「投票者が決めることだ」と苦笑い。グラミー賞は現在、完全に投票制を採用しており、委員会の介入はないと説明した。